2012年2月18日土曜日

それは考えなくてよい

先日2/15の国会事故調で、参考人として出席した班目氏(原子力安全委員会委員長)は、従来の原子炉の安全設計審査指針なるものの瑕疵(まちがい)を認め、お詫びしたとされる。

3/11東日本大震災により、なぜ全電源喪失という事態に至ったのか、以前よりとても不思議に感じてこのBLOGにも記事を書いたが、そのおおもとの発信源はこの指針だと分かった。

正式名を、『発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針』(平成2年8月30日決定、平成13年3月29日一部改定)というものだ。


瑕疵と認めた一つは、「Ⅵ.原子炉冷却系 指針27」に書かれた文章だ。
引用すると以下のとおりである。

Ⅵ.原子炉冷却系 指針27 電源喪失に対する設計上の考慮
長期間にわたる全交流電源喪失は、送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない。
非常用電源設備の信頼度が、系統構成又は運用(常に稼動状態にしておくことなど)により、十分高い場合には、設計上全交流動力電源喪失を想定しなくてもよい。

大変分かりにくい文章だが、地震で送電線や鉄塔が破壊されても、また非常用電源がすぐ修復する(と思われる)ので、電源全部がやられちゃうなんて、考えなくていいよ、と言っている。
また、非常用電源が主電源系統と別系統になっていたり、非常用電源がいつも動かされているというように、すぐ使える状態だと信用できる場合には、全電源が喪失するなんてこともまた、考えなくていいよ、と言っているようだ。

大震災を経験した今、なんてザルな安全指針なんだろうと驚きを隠せない。安全委員会というところでは、地震、津浪、テロなどの非常事態をほんとうに考慮したことがないらしく、せいぜい何かの事情で送電線の補修をするとか、故障などの部品交換作業くらいしか想定していないようだ。

また非常用電源は、どんな状況でも大丈夫だし、壊れてもすぐ復旧すると期待しているフシがあって、そこも不思議なところだ。すぐ復旧するような仕組なり、別の系統にするなどの構成がとられていたのだろうか。そこを既定してくれなければ、指針の意味はない。

後半の文章も、よく読むと意味のない文章であることが分かる。非常用電源が信頼できるならば、全電源喪失を想定しなくてもいいとは、ことさら言うまでもない。非常用電源が動いているならば、全電源喪失ではないことになる。問題は、非常用電源の信頼度を100%まで高めることではないのか。その指針はどうもない様なのだ。

どのような経緯と審査を経てこの指針が決定されたのか記述されていないため、詳細不明だが、論文だってレフリーの審査をパスしなかったら論文誌に掲載されない。原子力安全委員会決定とだけ小さく記されている。
寒い。とても寒い指針であった。



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